晩夏の夕暮れに起きた珍事
あれは、2021年9月上旬のこと。
野暮用で出かけた隣町から家へと帰る道すがら、ある貼り紙が左目の視界をヒュンと通り過ぎる。自転車をこいでいたため慌てて引き返すと、その貼り紙には、
「おたまじゃくしどうぞ」
と筆ペンで書かれた文字が。その下には、50cmほどの水槽が置いてあり、おたまじゃくし入りのビニール袋が沢山浮かべてあった。カエル好きのワタシの心はにわかに踊り、息子の喜ぶ顔を思い浮かべながら、迷わず1袋いただいて帰路につく。
おたまじゃくしの飼育
以前飼っていたシーモンキー用の水槽に入れたおたまじゃくしを目にした息子は、しばらくの間「オレのおたまじゃくしだ」と主張をし、「おれがやる!」とエサを積極的にやっていたが、案の定そのうち飽きて見向きもしなくなった。そこで、ワタシが飼育係に昇進。想定内。
小さな小さなおたまじゃくし。アマガエルかな~、ヒキガエルかな~、おたまじゃくしのサイズ的にウシガエルじゃないよね~、などと、カエル化した姿を想像しながら世話を続ける。とはいえ、おたまじゃくしは、ドブや小さなため池でも生き抜く強靭な生命力の持ち主。エサを毎日やり、たまに水を替えただけですくすくと育ってくれた。
10月のカエル
おたまじゃくしは、成長してニホンアマガエルになった。かわいい。かわいすぎる。
ビニール袋に入っていた6匹のおたまじゃくしのうち、生き延びてカエルへと成長したのは4匹。そのうち2匹は、9月の下旬には早々に変態した。
その頃は、まだ気温が高くエサが豊富だったので、コバエ・蚊・小さな蛾・ミミズの子・糸ミミズなどをせっせと捕獲しては、ピンセットでカエルに与えた。そのおかげか、2匹の餌付けはすんなりと成功した。
しかし、問題はあとの2匹だった。おたまじゃくしの頃から体が小さかった2匹は、変態までに時間がかかり、カエル化したのは10月になってから。気温が低くなったせいもあり、空中を飛び回る虫が激減し、土の中にいた虫までもがどこかに身を隠して姿を見せなくなった。
自然界のエサが激減する中、1匹はなんとか餌付けすることができた。餌付けさえできれば、あとは市販のカメフードやカエルフードをピンセットから食べてくれるので安心だ。市販の餌に飛びついてくるカエルはかわいいがすぐに太るので、逆に健康管理には気をつけないといけない。
給餌に応じないカエル
餌付けに失敗した最後の1匹。ピンセットでエサを与えても反応が薄い。口にエサを近づけると小さな手で拒絶し、それでも近づけるとうつむいて抵抗する。「これを食べないと死んじゃうよ」「ガンコなところは飼い主譲りだねぇ」などと、とカエルに話しかけながらも内心焦る。
エサをろくに食べていないカエルは、大きさは他のカエルたちと変わらないものの体型はガリガリ。見ていて心が痛むが、だからといって手放すことはできない。できる限りのことをしたいと思い、近所の林から腐葉土をとってきて、カエルを飼っているガラス容器に敷き詰めてみた。フカフカの腐葉土が、カエルたちを衝撃や寒さから優しく保護してくれる。
ガリガリのカエルは、もう1か月以上もエサを口にしていないはずなのに今日も生きている。もしかしたら、人間の目には見えない腐葉土の微生物を食べているのかもしれない。
その命、尽きるまで
ニホンアマガエルは、成長すると体長3~4cmになるらしい。うちのカエルたちを採寸してみたら、およそ1.8cmだった。ちなみに、ニホンアマガエルの寿命は5~7年といわれている。
今年の冬は越せるだろうか。
そんな飼い主の心配をよそに、4匹のカエルたちは今日も元気に生きている。